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 浅川さん,ISM研究会の皆さん,芸能評論家の今井です。

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>イット革命推進のため、15日夕
>刻池袋ビッグパソコン館を視察目的で訪問なされたそうです。

 森ちゃん──わが日本が生んだ当代随一のエンターティナーを生で見ること
ができなかったのは,痛切の至りであった。落語は寄席が基本だ。いくらテレ
ビが発達したとはいえ,やはり空気と空気を通しての,噺家と客との触れ合い
に優るものはない。目の動き,扇子の上げ下げ──所作の一つ一つが芸のうち
なのだ。

>「売春防止法違反」とか森ちゃんを巡る心温まるエピソード

 飲む,打つ,買うは噺家の基本教養である。おのれの生活の総ては,彼にと
っては芸の肥やしだ。芸に生き,芸に死ぬ噺家の宿命なのだ。

 いまこそ私は予言する。今度の定例記者会見で,「買ったことなんて一度も
ありません。売ったことなら何度もありますが」と言い放ち,日本中のお茶の
間を爆笑の渦に巻き込む森ちゃんの姿を。

 彼が「売春防止法違反」で検挙されたのも,この時のための布石だったの
だ。その瞬間のためだけに,森ちゃんはわざとつかまったのだ。芸のためな
ら検挙も厭わない,落語家の中の落語家なのだ。

>イット革命の前衛である森ちゃん
>は、

 古臭いネタ,手垢の付いた落ち──日本のお笑いの世界は本当に腐りきって
いる。もはや旧態依然とした噺では駄目なのだ。このままでは,オン・デマン
ドでマーケット・オリエンテッドなアメリカのお笑い芸人との較差は,ますま
す広がるばかりである。

 結局のところ,現在の落語界を救うことができるのは,イット(IT)の力だ
けだ。イットは,お笑いに革命を起こす。これを通じて,日本の芸能界全体が
変革の波に揉まれるであろう。

>TV受信機能のあるパソコンのモニタにTV画像が映っているのを見て、「これ
>は、普通のTVじゃやないんでしょ」とハイブローな質問を発し、

 溢れ出てくる言の葉,とどまることを知らぬネタ──もはや余人の追随を許
さない。完成された芸の技量と,もって生まれた人を笑わせる才能に,ただた
だ圧倒されるばかりだ。

>パソコン館の人が
>「パソコンです」と答えると、「これで普通にパソコンもできるんでしょ」と緻密で周到
>な、畳み掛けるような質問で

 森ちゃんは,ひとたび高座に上ると,緻密な構成と大胆な話芸で,観客をぐ
いぐいと自分の世界に引き込んでいく。しゃべる活火山,話す暴走機関車──
もうこの男を,誰も止めることはできない!

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〔三代目柳屋〕小さんは天才である。あんな芸術家は滅
多に出るものじゃない。何時でも聞けると思うから安っ
ぽい感じがして、甚だ気の毒だ。実は彼と時を同じゅう
して生きている我々は大変な仕合せである。今から少し
前に生れても小さんは聞けない。少し後(おく)れても
同様だ。

──漱石(『三四郎』新潮文庫版より)

 われわれもまた,森ちゃんと時を同じゅうして生きている仕合せを,噛みし
めようではないか。