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 ISM研究会の皆さん,今井です。窪西君が宣伝していた,石原発言問題につ
いての立教の研究集会(報告者=山田昭次)についてです。

 一応,出席することができなかった方のために,論評抜きで,報告要旨を書
いてみます。とは言っても,報告者は歴史学(近代日本史)の専門家で,俺と
は畑違いです。しかも,レジュメもありませんでした。こういうわけで,きち
んと理解することができたのかどうか,自信がありません。間違いなどあった
ら,訂正をお願いします(>>出席者の皆さん)。亀甲括弧“〔〕”で囲まれた
部分は今井による補足です。

 報告は起承転結の筋道とか,明確なアウトラインとかがあるものではなかっ
たので,取り敢えず,報告者が強調していたところ,および出席者の興味を引
いたであろうと予想されるところを,箇条書きにしてみます。

・関東大震災時の虐殺の朝鮮人犠牲者の記憶の風化を物語るのは,その慰霊碑
  の建立史である。第一に,敗戦後の一時期は民主化の気運も盛り上がって,
  かなり慰霊碑が建立されたが,最近では殆ど建立されていない。第二に,加
  害主体(自警団および軍・警察)を明記したものが殆どない。以上のこと
  は,日本人が虐殺の歴史の反省を避けてきたということ,虐殺の記憶を失い
  つつあるということ,在日朝鮮・韓国人が日本で生きていくためには,商業
  上の理由から,この問題に触れないようにせざるを得なかったということを
  意味している。

・内務省は関東大震災の際の朝鮮人大虐殺の現状を認知していたし,少なくと
  もその初期には積極的にデマ(“不逞朝鮮人が社会主義者とつるんで暴動を
  起こしてるぞ”)を飛ばしていた。この点は資料上,確認されている。

・石原都知事の三国人発言は誤った歴史認識に基づいているか,歴史に対する
  無知に基づいているか,そのいずれかだ。“三国人”あるいは“第三国人”
  とは,外国人一般を指すのでも,外国人犯罪者を指すのでもない。“三国
  人”あるいは“第三国人”は,敗戦国日本に居住していながら,敗戦国の国
  民ではなく,なお且つ戦勝国(中国および朝鮮半島の国家を含む)の国民と
  しても認められないという,そういう不安定な状態にある人たち,つまりい
  わゆる“在日”の人たちを指す言葉だ。形式的には中国人および朝鮮人は敗
  戦国民ではなく戦勝国民だが,日本にいる限りでは(在日の連合国西洋人と
  は異なって),戦勝国民として認められていなかったのである。

・このような不安定な取り扱いが行われた原因の一つはGHQの政策にある。GHQ
  は,最初は在日の人たちを戦勝国民として取り扱っていた(従って日本警察
  の管轄外にしていた)が,やがてはその取り締まりを日本警察に任せるよう
  になった(戦勝国民でありながら,戦勝国民としての取り扱いを彼らから剥
  奪した)のである。

・日本人の方にも根深い差別意識があったから,“アメリカ人に戦勝国民とし
  て支配されるのは仕方がないが,中国・朝鮮人フゼイに戦勝国民ヅラされる
  のは  屈辱的だ”という意識が一般的であった。

・民族差別は,〔──人種差別・女性差別・部落差別など,他の総ての搾取と
  全く同様に──,〕“封建遺制”(江戸時代の遺物)でもなんでもなく,そ
  れどころか,優れて現代的な現象〔資本の,資本による,資本のための差
  別〕である。

・現在,日本の戦争責任を裁く民衆法廷が開かれており,これはこれでなかな
  かいいことだが,現在の国際公法では,植民地支配を裁くことができない。
  現在の国際公法の枠組みを前提する限りでは,イギリスのインド支配は合法
  的であったし,それ故にまた,日本のアジア諸国支配も合法的であらざるを
  えない。もし日本のアジア諸国支配が違法であるならば,イギリスのインド
  支配も違法になってしまうであろう。所詮,国際公法は帝国主義の国際公法
  なのである。従って,日本の植民地支配を批判するためには,国際公法の枠
  組みそのものを変えていかなければならない。

・“日本人には被害者意識しかなく,加害者意識しかない”というのは間違い
  だ。正しくは,“日本人には被害者意識さえない”のだ。と言うのも,日本
  人は被った害に対する抗議を行わなかったし,補償を求めなかったからだ。

・ファシズムの責任を権力者だけに帰着させてはならないのであって,草の根
  ファシズム,民衆ファシズムの研究が必要だ。